あきらめない技術としてのセルフ・コンパッション

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あきらめない技術としてのセルフ・コンパッション

物事が上手く進まなくてあきらめてしまいたくなることはないでしょうか。しかし「あきらめたらそこで試合終了です」。どうすればあきらめずにやっていけるのか。その答えの一つとして、書籍『イノベーションを生み出すチームの作り方』(伊達洋駆, 2024) で取り上げられている「セルフ・コンパッション」という考え方が参考になると思います。

セルフ・コンパッションとは

「コンパッション (compassion)」は英語で「思いやり」ですが、本書では以下のように定義されています。

セルフ・コンパッションは、自分の苦しみに気づき、それに対して思いやりを持って接する態度

— 伊達 洋駆. イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由, p.94. すばる舎, 2024.

私も最初は「セルフ・コンパッション=自己肯定」というイメージでしたが、本書で目指すのは、困難な状況に対して批判的に見る視点と思いやりの視点を持ちその2つのバランスを取ることでした。
困難な状況から立ち直る力という意味で「レジリエンス」の一つの形とも言えると思いました。

なぜ「あきらめない技術」なのか

困難に直面してあきらめてしまいたくなるパターンとして、以下のようなケースが考えられます。

1. 過度に批判的になるケース

  • 「こんなバグを出すなんて私は無能だ」
  • 「もうこのプロジェクトは手遅れだ」
  • 「誰も協力してくれない」

2. 楽観的になりすぎるケース

  • 「なんとかなるさ」
  • 「時間があれば解決する」
  • 「誰かが何とかしてくれる」

セルフ・コンパッションは、この両極端を避け、現実的な解決策を見出すためのスキルであり、本書によると調査などにより訓練可能なものだと分かっているそうです。

コンパッションを高める方法

本書でコンパッションを高める方法として「2つの椅子」という手法を提案しています。これは自己対話の手法で1人から行うことのできる振り返りの手法と言えます。

振り返りの手法として有名なものとして KPTがありますが、従来のKPTが「Keep(継続したいこと)」「Problem(課題)」「Try(試したいこと)」という枠組みで考えるのに対し、「2つの椅子」では「批判の声」「思いやりの声」「統合した視点」という流れで状況を捉えます。

「2つの椅子」の例

例として、新しい技術にチャレンジして失敗した際の向き合い方について「2つの椅子」を用いて振り返ってみます。

  1. 批判の声:新しい技術を導入しようとしたが予想以上に時間がかかってしまい途中で断念してしまった、時間を無駄にした
  2. 思いやりの声:技術力が低かったとしても新しい技術にチャレンジする精神は大事だ、初めから全てが上手くできるとは限らない
  3. 統合した視点:新しい技術から学んだ設計思想は今後の参考になるし、失敗をシェアすることで同じ問題に遭遇した人の助けにもなる、その後の行動次第で無駄ではなくなるのではないか

このように、過度な自己批判や楽観に陥ることなく、現実的な改善の道筋を見出すことができます。

このアプローチでは、問題の直視と解決への建設的な姿勢のバランスが取れるだけでなく、従来のKPTでは見落としがちな「感情的な側面」や「多角的な視点」を取り入れることで、より深い気づきと実行可能な改善案を導き出せる可能性があります。

チームのコンパッションを高める

本書では思いやりを拡張していくことも提案しています。マネジャーが自己批判的な意見を持つメンバーに対して思いやりのある視点を提供することもできますし、チームでコンパッションを意識した振り返りを行うことも効果的と思います。

まとめ

セルフ・コンパッションは、問題を直視する勇気と思いやりの心を持ち、バランスの取れた改善を進める技術だと思います。まずは個人での実践から始め、チームや組織の文化として育てていくことで、あきらめない・持続可能なエンジニア組織を作ることができるのではないでしょうか。

参考文献

  • 伊達 洋駆. イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由. すばる舎, 2024.

イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由