視座の切り替えによる思考負荷を軽減する

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視座の切り替えによる思考負荷を軽減する

実装の細かい話をしていたと思ったら、次の瞬間にはチーム運営の相談。その後はプロダクト戦略の議論—。プレイングマネージャーをやっていると、こんな「頭の切り替え」は日常茶飯事だと思います。

でも、なぜこんなにも疲れるのでしょうか。抽象度の異なるコンテクストを行き来する際に切り替えに時間がかかったり脳に負荷がかかって集中できなかったりしていると感じました。この記事では、コンテクストの抽象度の違いを「視座」と呼び、その切り替えにかかるコストについて考えてみたいと思います。

そして、これはプレイングマネージャーだけの問題ではないと考えています。これからの働き方では、マネージャー職に限らず多くの人がマネジメント的な要素を担うようになり、同様の課題に直面するのではないでしょうか。

今回は、この概念を通じて思考負荷を軽減し、集中できる環境をつくるための考え方について整理してみたいと思います。

視座の切り替えコストとは何か

プロダクト開発を例に考えてみましょう。私たちの思考には、大きく分けて3つの視座があると思います。

  • どうつくるか:実装の詳細、技術的な課題解決
  • 何をつくるか:機能仕様、ユーザー要件の整理
  • なぜつくるか:事業戦略、市場価値の検討

この3つを縦に移動する時—例えば、コードレビューの最中に突然「そもそもこの機能って必要でしたっけ?」という話になった時—私たちの脳には大きな負荷がかかります。これが「視座の切り替えコスト」です。

また、時間軸の観点でも同様の現象が起きます。今日の緊急タスクから四半期の目標設定、さらには長期的な事業戦略といった時間軸の切り替えも、抽象度の切り替えと同じように思考負荷がかかるのではないでしょうか。

一方で、フロントエンドからバックエンドの実装に移る、直近のスプリントのことについて続けて会話するなどの水平移動は比較的楽に感じると思います。

よくある現象:なぜ話が噛み合わないのか

この視座のズレは、日常の会議やコミュニケーションで様々な問題を引き起こします。

話が噛み合わない瞬間があります。エンジニアが実装の詳細について説明しているのに、マネージャーはビジネス価値の話をしている。それぞれが正しいことを言っていると感じているのに、なぜか議論が平行線になってしまう。これは話の前提となる視座がずれているので理解もバラバラになり、噛み合っていない状態が生まれているのではないでしょうか。

自分の関心のある視座に話題を持っていってしまうこともあります。本来は「何をつくるか」を決める会議だったのに、いつの間にか実装の詳細に深く入り込んでしまい、肝心の目的を見失ってしまう。

頭に浮かんだことを反射的に話してしまう場面もあります。会議の流れで思いついたアイデアをそのまま口に出してしまい、結果として議論の焦点がぼやけてしまう。これは、視座の切り替えができていないまま思いついたことを話すと、場の視座と異なる発言をしてしまうということです。

エンジニアがプロダクトのことを考える時にも、同じ現象が起こります。技術的な議論が、いつの間にかユーザー価値の話になり、さらには事業戦略の話に発展する。一つ一つは価値のある議論なのに、頭の中でうまく整理できずに疲れてしまう経験は、多くの方にあるのではないでしょうか。

実践的な対策:3つの視点から

この「視座の切り替えコスト」を意識した働き方として、3つの観点から対策を考えてみました。

1. カレンダーデザイン

一定の視座を維持できる時間をなるべく長く確保することを意識しています。実装に集中したい日は1on1や戦略会議を入れない、逆に組織やプロダクトについて考える日は実装タスクを極力避ける、といった具合です。

これは時間軸でも同様で、短期的な課題解決に集中する時間と、中長期的な戦略を考える時間を分けることで、切り替えコストを削減できます。週の中での視座の移動をスムーズにするためにも、同じような思考レベルの作業をまとめて配置することで、切り替えコストを削減できるのではないでしょうか。

2. 思考負荷への気づき

まず大切なのは、自分の思考負荷にセンサーを働かせることです。どの視座で疲れやすいのか、どんな切り替えパターンが特に負荷が高いのかを観察してみてください。

また、話が噛み合わない時も表面的に捉えずに「視座がずれてただけ」という視点を持つことで、凹んだり諦めたりせずに済みます。自分への優しさでもありますが、相手への理解にもつながります。

3. 場のルール

会議での「もやもや」—話が噛み合わない、細かい話になってしまう、反射的な発言で焦点がぼやける—こうした現象の多くは、視座のズレが原因です。

アジェンダを事前に共有し、どの視座で議論するかを明確にする。事前課題により参加者の視座を揃えておく。会議中に視座がずれた時には、一度立ち止まって視座を合わせ直す。こうした場のルールをアップデートしていくことで、チーム全体の視座の切り替えコストを削減できます。

これから考えたいこと:キャリアと組織の課題

個人レベルでの対策に加えて、もう少し長期的な視点で考えてみたいことがあります。

個人のキャリアを考えると、専門性を高めたい段階では視座の切り替えをあえて避ける選択肢もあるのではないでしょうか。一方で、俯瞰的な視点が必要な時期では、多少の負荷を受け入れてでも幅広い視座を経験することに価値があるかもしれません。

この視点を活用して、組織の中での目標設定を視座の観点で組み立てることができそうです。「今は専門性を高めたい時期なので、視座の切り替えが多い業務は負荷が高い」「将来的なキャリアを考えると、幅広い視座を経験したい」といった前提を組織と共有できれば、その人に対する場の参加の仕方や仕事への取り組み方をより良いものにできるのではないでしょうか。

これからの働き方では多くの人がマネジメント的な要素を担うようになることを考えると、こうした視座を意識したキャリア設計と組織との対話がますます重要になってくると思います。

おわりに

「視座の切り替えコスト」という概念を通じて、思考負荷を軽減し、集中できる環境をつくるための考え方について整理してみました。これは個人の工夫だけでなく、チームや組織全体で取り組むべき課題だと思います。

これからの働き方では、こうした思考負荷に対するセンサーを働かせ、仕組みやルールを改善していくことがますます重要になるのではないでしょうか。