キャリアの当たり前を疑ってみる

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キャリアの当たり前を疑ってみる

「エンジニアとして、これからどうなりたいですか?」

キャリアを考える場面で、こうした問いかけを受けたり問いかけたりすることがあります。でも私は、この問いに対してどこか窮屈さを感じることがありました。

この違和感の正体は何だろうと考えてみると、問いそのものに「エンジニアである」という前提が埋め込まれていることに気づきます。「エンジニアとしてどうなりたいか」と問う時点で、すでにエンジニアという枠の中で考えることが暗黙のうちに求められている。

もちろん、その枠の中で考えることが悪いわけではありません。ただ、変化の早い時代において、この前提に自覚的であることには意味があるのではないでしょうか。

役割というラベルの功罪

エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャー。プロダクト開発の現場では、こうした職能によって役割が分かれていることが多いです。特に組織が大きくなるほど、その境界は明確になっていきます。

このラベルには良い面があります。専門性を深める指針になりますし、キャリアを積み重ねていく上での軸にもなります。「エンジニアとして成長したい」という思いが、技術力を磨く原動力になることも多いでしょう。

一方で、このラベルが思考を固定化させることもあります。「エンジニアだからコードを書くべき」「エンジニアのキャリアとしてはこれが一般的」といった暗黙の前提が、いつの間にか選択肢を狭めていることがある。

プロダクト開発に携わる人は、専門性を軸にキャリアを積むことが多いからこそ、この前提を問い直すことが難しい構造があるように思います。職能が明確に分かれている環境では、「エンジニアとして」という枠組みの外側を考えること自体が、なかなか発想しづらいのかもしれません。

そして正直なところ、このバイアスを外して考えるのは簡単ではありません。「エンジニアとしてどうなりたいか」と考える方が、直感的に正しそうだし、考えるのも楽です。一方で、その枠を外して考えようとすると、難しいし、苦しいし、めんどくさい。そもそも正しいかどうかもよくわからない。だからこそ、なかなか前提となるルールや制約を見直せないのかもしれません。

深い振り返りという選択肢

長期的なキャリアや人生のことを考えるタイミングでは、日々の振り返りとは違うアプローチが必要になるのではないでしょうか。私はそれを「深い振り返り」と呼んでみたいと思います。

深い振り返りには、2つの方向性があると考えています。

ひとつは視野を広げる振り返りです。エンジニアとしての仕事だけでなく、一緒に働く人のこと、チームや組織のこと、あるいは仕事以外のつながりや社外での活動にも目を向けてみる。普段は意識しない領域に視野を広げることで、自分が何に関心を持っているのかが見えてくることがあります。

もうひとつは遡って編み直す振り返りです。学生時代にどんなことに興味を持っていたか、エンジニアリング以外でどんなスキルを身につけてきたか。過去のさまざまな経験を振り返り、そこに共通するパターンを見出してみる。「今だから言えること」として、過去の断片をつなぎ直してみると、自分でも気づいていなかった傾向や関心が浮かび上がってくることがあります。

こうした振り返りを通じて、エンジニアというレンズを一度外してみる。すると、「自分はこういうことに関心を持つパターンがあるのかもしれない」「これは得意で、これは苦手かもしれない」といったことに気づけることがあります。

深い振り返りが目指すのは、「正しい答え」を見つけることではないと思います。むしろ、「正しいかどうかはわからないけれど、こちらの方向に何か面白いものがある気がする」という感覚を掴むこと。自分がどこに惹かれているのか、どこに向かっている状態だと楽しいのか。そうした方向感覚を得ることが、深い振り返りの価値なのではないでしょうか。

私自身の経験から

私自身、振り返りの中で「ルール」というテーマを見つけました。

なぜルールに関心があるのか。なぜルールを変えられないと感じてしまうのか。そうした問いを掘り下げていく中で、これが自分にとって大切なテーマなのだと気づくことができました。

このテーマを今の仕事と繋げて考えるようになってから、仕事の見え方が変わりました。エンジニアリングマネージャーとしての仕事も、「チームのルールをどうデザインするか」という視点で捉え直すことで、マネジメントに対して自分なりの面白さを感じられるようになったのです。

これは、エンジニアというレンズを外して自分を振り返ったからこそ見えてきたものだと思います。

「当たり前」を疑うことから始める

遠くを見ようとするとき、つい目を遠くに向けがちです。でも、遠くを見るためには、まず一歩引いて足元を確かめることが必要なのかもしれません。

深い振り返りは、そのための足場を提供してくれると思います。自分について知ること、変わったものと変わらないものに気づくこと。それが、これからのことを考えるための基礎になる。

ビジョンを描くとき、今から遠くを見ようとするのではなく、目の前の「当たり前」を疑ってみることから始めてみてはどうでしょうか。

「〇〇するべき」「〇〇は当たり前」。そう思ったとき、本当にそうだろうか?と問いかけてみる。その小さな問いかけが、自分がどこに惹かれているのかを知るきっかけになるかもしれません。

好奇心を源泉に、長いキャリアを楽しむ。深い振り返りは、そのための第一歩になるのではないかと思います。