仕事の中に推しを見つけるということ

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仕事の中に推しを見つけるということ

エンジニアリングマネージャーとして、数値共有や1on1の重要性は理解しています。チームの状態を把握するために数値を見る。メンバーとの対話を通じて相互理解を深める。これらを「当たり前」として実践してきました。

しかし、なぜこれらが重要なのかを自分の言葉で説明できているでしょうか。「ベストプラクティスだから」という理由だけではないはずです。

私にとってファシリテーションとは「相互応援の仕組みをつくること」だと捉えています。チームメンバーがお互いを応援し合い、プロダクトを応援し、良いものが生まれていく。この視点から、数値共有や対話の意味を言語化したいと思いました。

そのヒントとして、「推し活」についてのリサーチレポートを読んでみました。

推し活とは何か

「推し活」が幸福度を高める?!「応援」から「感謝」まで、多様な推しとの関係性を生み出す"オシノミクス" ―HAKUHODO HUMANOMICS STUDIOがレポート第2弾を発表― |お知らせ|博報堂 HAKUHODO Inc.

博報堂の「オシノミクスレポート」によれば、「推し」とは単なる「好き」とは異なります。「応援したくなる」「成長を見守りたい」という感情に加え、能動的に働きかけて支えたいという意思があるかどうかが重要な違いです。

推し活がもたらす3つの効果

推し活は以下の3つの心理的効果をもたらすとされています。

  1. 息抜き: 日常からの気分転換
  2. 自己開示のツール: 推しを通じて自分を表現する
  3. 利他の幸福感: 推しに貢献することで得られる満足感

特に3つ目の「利他の幸福感」は興味深いポイントです。推し活における消費は、対象への貢献という動機に強く根ざしています。

6つのクラスターと3つの関わり方

レポートでは、推し活を行う人々を心理的動機に基づいて6つのクラスターに分類しています。

  • 推し活は共有体験にしたい
  • 推し活で日々を輝かせたい
  • 推しをエネルギーに生きたい
  • 推しは遠くから眺めたい
  • 推し活はカジュアルに楽しみたい
  • 推し活をどこまでも極めたい

これらを見ると、推しとの関わり方は大きく3つに分けられるのではないかと考えました。

  1. 積極的に変化に関わりたい: 推しと一緒に何かをつくりたい、成功に貢献したい
  2. 受け身的に楽しみたい: 推しの活動があると嬉しい、支援はするが距離は保つ
  3. 多様なものの一つとして楽しみたい: 数ある趣味の中の一つとしてカジュアルに

推し活の3つの効果 × プロダクトづくり

このリサーチを読んで、推し活の構造をプロダクトづくりに当てはめて考えてみました。

自己開示のツールとして

エンジニアとして専門性を持ちつつプロダクトづくりをすることは、自己開示のツールになっているのではないでしょうか。「私はなぜこのプロダクトをつくっているのか」という問いに答えることは、自分を表現することに繋がります。

チームで共通の目標を持つことで、コンテクストが生まれ、自己開示がしやすくなる。何も制約がないところで自己開示をするのは難しいですが、プロダクトという共通の文脈があることで、自然と自分の考えや価値観を表現できるようになります。

利他の幸福感として

プロダクトやチームに対して意味がある、誰かにとって価値があることを行っていると感じられるかどうか。これは重要なポイントです。誰も使わない、誰も幸せにならないプロダクトはつくりたくない。この「誰かの役に立っている」という実感が、プロダクトづくりにおける利他の幸福感なのではないでしょうか。

息抜きとして

エンジニアとしてプロダクトづくりに没頭できることは、ある意味で息抜きになっていると感じることがあります。1人でつくっていてもなかなか続きませんが、チームでプロダクトをつくることは続けられる。同じように感じる人は他にもいるのではないかと思います。

推し活の6つのクラスター × プロダクトづくり

次に、6つのクラスターをプロダクトづくりに当てはめて考えてみました。

プロダクトづくりを通して「皆で盛り上がりたい」「共有体験にしたい」という関心を持つ人もいれば、プロダクトを通してインパクトを生みたいという関心を持つ人もいます。このように、同じプロダクトに関わっていても、その関わり方や動機は多様です。

私は一般的な推し活、例えばエンタメ分野においては「遠くから眺めたい」タイプだと思います。好きなアーティストやコンテンツはありますが、積極的にイベントに参加したり、グッズを集めたりすることはあまりありません。「多様なものの一つとしてカジュアルに楽しみたい」というところから入り、遠くから活躍を見守っているだけで満足してしまいます。

しかし、プロダクトづくりにおいては「積極的に変化に関わりたい」と思えるものを見つけたいと考えています。プロダクトの成長に貢献したい、チームと一緒に何かをつくりたい。

この違いは何から生まれるのでしょうか。おそらく、時間やエネルギーといったリソースの制約の中で、何に優先的に関わるかを選択しているのだと思います。エンタメの推し活よりも、プロダクトづくりの方が自分にとって優先度が高い。だから「自分で変える、変えられる、変えたい」と思える。

では、プロダクトづくりにおいて「積極的に変化に関わりたい」と思えるようになるには、何が必要なのでしょうか。

推し活は「相互の変化に関わること」

ここで重要な気づきがありました。推し活とは、推される側だけでなく、推す側も相互に影響し合う関係だということです。推し活は「推し合うこと」であり、推される対象もまたファンを推している。

推し活の様々な欲求—成長や活躍を支援したい、一体感を味わりたい、知的好奇心を満たしたい—これらはすべて、相互の「変化」に関わることと捉えられるのではないでしょうか。

推しの成長を見守りたい。推しの活躍を支援したい。これらは推しの「変化」に関わりたいという欲求です。そして、推しから活力を得て自分も変化していく。この相互の変化に関わることが、推し活の本質なのではないかと考えました。

そうであれば、推し活の欲求を満たすためには、「変化」が見えることが必要です。変化が見えなければ、応援することも、貢献することも、成長を見守ることもできません。

プロダクトづくりにおける変化の可視化

この視点をプロダクトづくりに応用すると、「積極的に変化に関わりたい」と思えるようになるためには、変化を捉える情報の可視化が必要だということになります。

プロダクトの数値

プロダクトの成長や活躍、ユーザーとの共有体験が見える数値。これらを可視化することで、メンバーは自分たちの貢献がプロダクトの変化に繋がっていることを実感できます。誰かの役に立っているという利他の幸福感も、変化が見えることで得られます。

チームの対話

お互いの変化を知るための対話。1on1やチームでの振り返りを通じて、メンバー一人ひとりがどう変化しているか、何を学んでいるかを共有する。これは知的好奇心を満たし、自己開示のツールにもなります。

これが、数値共有や対話が重要な理由なのではないでしょうか。単なるベストプラクティスとしてではなく、相互の変化に関わることで推し合う関係を醸成するために必要なのだと考えました。

おわりに

今回は、数値の可視化や対話の重要性について推し活の視点から考えてみました。

振り返ってみると、これは「推したくなる問いを見つける」プロセスでもあったのではないかと思います。「なぜ数値共有や対話が重要なのか」という問いを、「相互応援の仕組み」という自分の関心軸から探究したいと思えたからこそ、推し活という一見関係のない領域にまでヒントを求めることができました。

推し合うとは、プロダクトという対象を推すことでもあるし、お互いの探究テーマや問いを推すことでもある。そして、そのような関係を育む組織をつくることでもある。このメタな相互関係を意識しながら、今後もプロダクトづくりにおいて「推し合う」関係を育む方法について考えていきたいと思います。