なぜ「こうなると良い」をチームに開けないのか
チームでの振り返りや議論の場は定期的に設けられている。メンバー同士のコミュニケーションも活発だ。それなのに、なぜか「こうなると良いんだよな」という思いをチームに開けないでいる状況が起きていた。
技術的な問題点は鋭く指摘できるメンバーが多い一方で、それが建設的な議論に発展せず、批判で終わってしまうケースが頻発していた。優秀なエンジニアが集まっているのに、なぜかそれぞれの「こうなると良い」という思いが共有されない。
この記事では、これを個人の「巻き込み力」が足りないという問題意識からスタートして、最終的に、チームや個人に何を期待すると良いのかということについて考えてみたいと思います。
なぜ「場をつくる」ことができないのか
巻き込み力について調べてみると、多くの理論が情熱的なビジョンで人を動かすスタイルや、論理的な説明で納得させるスタイル、信頼関係で影響力を築くアプローチなどを提唱しています。確かにこれらは重要なスキルです。
しかし、私たちのチームで起きている問題を考えてみると、疑問が浮かぶ。これらのスキルが低いかというとそうでもない。しかし、振り返りの場やチームで議論できる機会があるにも関わらず建設的な議論ができる場をつくれていないのはなぜか。
考えてみると、議論したいテーマに対して他のメンバーの関心が低いかもしれない、チームが目先の向かう方向性からズレているので違う方向性を示しづらい——そんな状況があった。自身が感じる違和感に対して、他者の期待が低いことが原因なのではないかと考えた。
つまり、どのようなリアクションが返ってくるかを想像して、ひらけていないということが起きているのではないか。それは何が原因なのだろうか。
場に不足していた「配慮」という視点
思考を重ねる中で、場に「配慮」が不足しているのではないかということを考えた。ここでいう配慮とは、場の参加者に対する文脈づくりと場の目的に対する貢献への積極的なコミットメントを指す。
そして、この配慮が機能するためには、自分が提案した上で他のメンバーに対して「配慮」できるという自信と、他のメンバーも同様に「配慮」してくれるという期待、その両方が必要になると考えます。
場の参加者に対する文脈づくり
技術的な専門性が高いチームでは、必然的にスキルや知識に差が生まれる。フロントエンドに詳しいエンジニア、インフラに強いエンジニア、UXに関心があるエンジニア——それぞれが異なる専門領域を持っている。
この差を「個人の勉強不足」として片付けずに、専門性の差を埋めるための相互配慮が必要だと考えています。
「わからないことをわからないと言う」——これも重要な配慮の一つです。知ったかぶりをせず、理解できない部分を素直に表明することで、説明する側も相手に合わせた伝え方を工夫できます。結果として、チーム全体の理解レベルが底上げされます。
場の目的に対する貢献
もう一つの配慮は、その場が何を目的としているかを理解し、その実現に向けて積極的に貢献する姿勢です。
デザインレビューであれば、単に問題点を指摘するだけでなく、「よりよいプロダクトを作る」という目的に向けて建設的な提案をする。技術仕様の議論であれば、「ユーザー価値を最大化する」という視点から発言する。
この配慮があることで、批判は建設的な議論に変わり、個々の専門性は共通のストーリーに統合されると考えます。
配慮による組織文化づくり
当初、私は「巻き込み力を仕組みの問題として解決したい」と考えていた。役割と責任の明確化、フィードバックループの構築、情報の透明性向上——これらは確かに重要だ。
しかし、その仕組みを運用するのはメンバー個人であり、個人が「配慮」について考えることも重要だと考えます。
巻き込み力の本質は、個人のカリスマやプレゼンテーション能力ではなく、全員が「配慮」を発揮できる組織文化にあると考えます。
全員プロダクト思考への道筋
私たちのチームが目指しているのは、PMでないエンジニアもプロダクトマネジメントに精通し、プロダクトや事業の視点で考えることができる「全員プロダクト思考」のチームです。
これを実現するためには、個々の専門性を磨くだけでは不十分だと感じています。その専門性を、プロダクト全体の価値に変換するための共通言語と文脈が必要になります。
配慮に基づいた場づくりは、まさにこの変換プロセスを支える基盤になると考えています。技術的な制約を理解した上でビジネス価値を最大化する判断ができる、ユーザー体験を技術実装の視点から改善提案できる——そんなエンジニアが育つのは、お互いに配慮し合える環境があってこそではないでしょうか。
自分のチームの「配慮」について考えてみる
私自身、これまでの議論を踏まえて、自分のチームについて考えてみようと思います。
まず、自身の配慮について。会議での説明の仕方、専門用語の使い方、批判時の代替案提示など、振り返ってみると改善できる点が多くありそうです。一方で、メンバーからは相互説明や専門性の差を埋める支援、場の目的を意識した発言など、すでに多くの配慮をしてもらっていることに気づきます。
どのような配慮が不足しているか、それがチームのパフォーマンスにどう影響しているかを考えることで、私たちが目指すプロダクト思考のチームに近づくために必要な配慮が見えてくるのではないでしょうか。
おわりに
巻き込み力を「個人のスキル」として捉える限り、真の問題解決には至らないのではないかと感じています。重要なのは、チーム全体が「配慮」を共通言語として持ち、それを日常的に実践できる組織文化を築くことだと考えます。
チームの集まる場にて「配慮」の視点を意識していくことで、やがて全員プロダクト思考のチームを実現する組織文化につながるのではないでしょうか。
