プロダクトを作ることはシステムに加担すること

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プロダクトを作ることはシステムに加担すること

市谷聡啓氏の「作る、試す、正す——アジャイルなモノづくりのための全体戦略」を読みました。著者の前著から引き続き関心を持って読んでいますが、今回は特に自分の問題意識と重なる部分が多く、考えたことをまとめてみます。

作る、試す、正す。 アジャイルなモノづくりのための全体戦略

エンジニアとしてプロダクトを作っていた頃、私は「何の業界や市場にインパクトを与えようとしているのか」という意識が薄かったように思います。目の前の機能を作ること、技術的な課題を解決することに集中していて、それ自体は間違いではなかったと思います。ただ、「なぜこれを作っているのか」という問いは持っていても、その先にある「誰のどのような状況を変えようとしているのか」という視点までは持てていませんでした。

プロダクトマネジメントに関わるようになってから、この視点は少しずつ変わっていきました。「なぜこれを作るのか」だけでなく、プロダクトが存在する業界や市場の構造、そこにある既存のルールを問い直すこと、短期的な成果だけでなく長期的な目線で考えることの重要性を実感するようになりました。

そうした視点を持ちながら本書を読むと、著者の前著からさらに自分の問題意識と重なる内容になっていると感じました。本書では「ソフトウェアづくり → プロダクトづくり → システムづくり」という視座の拡張が提示されています。この「システム」という言葉が、私がぼんやりと考えていたことを捉えるのに役立つと感じました。

プロダクトを作ることは「システムに加担する」こと

プロダクトは単体で存在しているわけではありません。業界や市場というより大きなシステムの中で機能しています。私たちがプロダクトを作るとき、意識するしないにかかわらず、そのシステムに加担しているのだと思います。

この視点に立つと、問いの立て方が変わってきます。「なぜこのプロダクトが必要か」という問いだけでなく、「インパクトを与えたい業界や市場に対して、どのような価値・影響を与えたいのか、なぜそう思うのか」という問いが必要になります。

たとえば音楽業界でビジネスを考えるとき、著作権というルールを前提にしてその枠内で考えることはできます。しかし、音楽業界に対してどのようなインパクトを与えたいのかという視点を持つと、既存のビジネスモデルやその背景にあるルール自体を問い直す力が生まれます。これは既存の制約を一度外して考えることができるということであり、人や組織の創造性を発揮しやすくなる可能性があるのではないでしょうか。

この視点はプロダクトマネージャーだけではなく、プロダクトを作る人、使う人、システムに参加し加担するすべての人が持ちうるものだと思います。そしてそのような視点を持つ人が増えることで、より創造的な関わり方が生まれるのではないでしょうか。

ここで大事だと考えているのは、システムに関わる人たちの関係性です。たとえば、システムを作りたい人がエンジニアやデザイナーを「手段」として道具的に扱うような関係は、私は望ましくないと考えます。また、作り手がユーザーに対して一方的にルールを決めるような傲慢さも避けたいところです。システムに関わる人が一緒にシステムを育てていくことができる状態。それを人とシステムとの良い関係と呼べるのではないでしょうか。

システムへの視座がもたらすもの

システムへの視座を持つと、見えてくるものが変わります。

「業界や市場にどのようなインパクトを与えたいのか」という問いを深く考えた結果、プロダクトを作ることが最適な手段ではないという結論に至ることもあります。組織の仕組みを変えること、業界の慣習を変えること、あるいは複数のプロダクトや施策を組み合わせたシステム全体をデザインすることが必要な場合もあります。

「どのようなシステム(組織やプロダクトを含む仕組み)を置くことで、業界や市場の状況を変えていけるのか」という問いは、プロダクト単体の問いよりも広い選択肢を生みます。

技術的負債についても同様のことが言えると思います。技術的負債は往々にしてエンジニア個人やチームの責任として語られがちですが、「必要なときに必要な手を打てる技術環境」はシステムの責任として捉え直すことができます。個人の努力や能力の問題ではなく、そのような判断と行動を可能にする仕組みがあるかどうかの問題なのではないでしょうか。

技術力を「システムを変える力」として捉え直す

ここでエンジニアの話に戻りたいと思います。

技術力とは何でしょうか。コードを書く力、設計する力、プロダクトを作る力。これらは確かに技術力の一部だと思います。しかし、それだけではないのではないかと考えるようになりました。

私は、エンジニアの技術力を「システムを変える力」として捉え直せるのではないかと考えています。ここでいうシステムとは、ソフトウェアシステムだけでなく、チームや組織、事業、さらには業界や市場までを含みます。

この視点で見ると、技術力の高さは影響を与えられるシステムの範囲で捉えることができます。自分が担当するコードの一部だけを変えるのか、プロダクト全体のアーキテクチャを変えるのか、開発チームの働き方を変えるのか、事業全体の方向性に影響を与えるのか、業界や市場の構造を変えるのか。より大きなシステムを変えることができるかどうかが、技術力の一つの尺度になりうるのではないでしょうか。

変化の起点としての個人の衝動と好奇心

では、何かを変えるために必要なものは何でしょうか。

私は、個人の衝動や好奇心だと思います。「これはおかしいのではないか」「もっとこうできるのではないか」という個人的な違和感や興味。それがアウトプットされて誰かの目に留まり、共感や協力が生まれ、点と点が繋がっていきます。

システムを変えるという大きな話をしても、その起点は個人の小さな衝動や好奇心なのだと思います。組織やチームがそのような個人の衝動を活かせる環境を持っているかどうかは、長期的なシステムづくりにおいて重要な要素になるのではないでしょうか。

キャリアへの示唆

最後に、この視点がエンジニアのキャリアにどうつながるかを考えてみたいと思います。

エンジニアとして培った技術力を、より広いシステムに影響を与える形で捉え直すことは、キャリアの可能性を広げることにつながるのではないかと思います。コードを書く力は、突き詰めれば「仕組みを作り、動かし、改善する力」であり、それはソフトウェアに限らずさまざまなシステムに適用できます。

そして、その方向性を決めるのは、個人の好奇心や衝動なのだと思います。自分が何に違和感を覚え、何を変えたいと思うのか。その問いに向き合うことで、自分らしいモノの見方やキャリアが作れるのではないでしょうか。

そのためには、「エンジニアとはこういうものだ」という既存の枠組みにとらわれず、問い直す姿勢も必要なのかもしれません。