最近、AI活用に関するモヤモヤを日々目にします。「AIが生成したものをそのまま使うことは悪いのか?」という問いもその一つです。
一般的には「生産性向上のためのAI活用」と語られることが多いように思います。それは必ずしも悪くありません。しかし、それだけで良いのでしょうか。
前回の記事「仕事が楽しいとなぜ良いのか?」で、AIは「不合理→合理」(最適化)を得意とし、人間は「合理→不合理」を生み出すことで楽しさや価値を生むと書きました。生産性向上だけに焦点を当てると、「不合理→合理」だけになり、人間の「合理→不合理」が失われてしまうのではないでしょうか。
では、AI活用において、生産性以外に何を大事にすべきなのか? この記事では、この問いについて考えてみたいと思います。
AIは組織の鏡である
2025年DORAレポート「AI支援によるソフトウェア開発の現状」では、重要な知見が示されています。
2025 年 DORA レポート: AI 支援によるソフトウェア開発の現状 | Google Cloud 公式ブログ
AIはチームを修正するのではなく、すでに存在するものを増幅するのです。優れたチームはAIを活用して、さらに優れた、より効率的なチームになります。一方、苦戦しているチームでは、AIが既存の問題を浮き彫りにして悪化させるだけだと感じるでしょう。
— 2025 年 DORA レポート: AI 支援によるソフトウェア開発の現状
さらに、こうも述べられています。
最大の成果は、AIツール自体からではなく、社内プラットフォームの品質、ワークフローの明確さ、チームの連携に戦略的に焦点を当てることで得られます。
— 2025 年 DORA レポート: AI 支援によるソフトウェア開発の現状
つまり、AIは組織の鏡なのです。生産性向上だけを追っても、組織の本質的な課題は解決しません。
では、生産性に加えて何を指標とすべきでしょうか。私は2つの指標が重要だと考えています。「自身の論を研ぐこと」と「分断を解消すること」です。
自身の論を研ぐとは何か
「自身の論を研ぐ」とは、思考のフレームワーク化、探究のレンズの深化を指します。
探究のレンズとは「どうしてもこういう視点で世の中を捉えてしまう」という考え方のクセのことです(前回記事「仕事が楽しいとなぜ良いのか?」で詳しく書きました)。それは、自分のこだわりであり、個性であり、専門性でもあります。
自身の論を研ぐとは、自分のこだわりに気づき、それを発揮できる仕組みをつくることではないでしょうか。
AIが「不合理→合理」(課題解決、最適化)を得意とする中で、人間は「合理→不合理」を生み出します。自分の探究のレンズを通じて、新しい視点や課題設定を生み出すこと。それが「自身の論を研ぐ」ということであり、AI時代における人間の創造性の源泉ではないかと私は考えています。
分断を解消するとは何か
問い直しができなくなる
誰かの合理性に乗ることで「なぜ」が分からなくなります。そうすると、問い直しができなくなります。
問い直しとは、自分のコンテクストと他者のコンテクストを繋ぐことです。より良い課題解決を目指し、とらわれから脱却し、こだわりを発揮しやすい状態を作ることではないでしょうか。
ルールの例で考える
私の関心であるルールの視点から考えてみたいと思います。
例えば、理不尽な校則や、背景不明のコードがあります。前者は「ダメなものはダメ」と言われ、誰も背景を答えられません。後者は変更にリスクが伴い、誰かが「なぜそのコードが書かれたか」を解明する必要があります。
どちらも、誰かが何かの理由で作ったルールの制約を受けている状態です。問題は「だったらこうした方が良いのではないか」という問い直しができないことにあります。
ルールの階層性と分断のメカニズム
ルールには階層性があります。既存のルールの上に新しいルールが作られます。なぜなら、ルールは課題から生まれ、既存のルールの問題を別のルールで解決しようとするからです。
既存のルールを問い直せないと、ルールはどんどん重なり、制約が増えていきます。それぞれのルールが異なるコンテクスト(課題や状況)から生まれているのに、背景が分からないまま重なっていきます。
すると「なぜ」が見えなくなります。A部署の合理性、B部署の合理性...が繋がりません。繋がらないと、相互理解や協力ができず、分断されてしまいます。これがコンテクストの分断ではないでしょうか。
AI活用における分断
AIが生成したコードをそのまま使うと、同じことが起きる可能性があります。背景のわからないルールを増やしてしまうのです。
一方、問い直しながらAIを使うことは、コンテクストを繋ぐことになります。ただし、問い直すためには、問い直せるだけの技術力や理解力が必要になります。
分断を解消するということ
分断を解消するとは、問い直しができる状態を保つことです。
技術や手法だけでは解決できない、人や組織の関係性や前提を問い直す必要がある課題――適応課題を解消することでもあります。良い関係になること、相互応援の関係になることを目指すこと。そのためにAIを活用するのが、良い活用なのではないでしょうか。
これがファシリテーションでもあるのではないかと私は考えています。
AI活用で大事にしたいこと
AI活用において、生産性向上は重要です。しかし、それだけでは不十分ではないでしょうか。
自身の論を研ぐこと、分断を解消すること――この2つを忘れないようにしたいと思います。生産性を保ちながら、さらに大事にしたいものがあるのではないでしょうか。
自身の論を研ぐことで、人の創造性を奪うのではなく、研ぐことができます。分断を解消することで、良い関係や相互応援の関係が生まれます。
これがクリエイターとしてのAI活用であり、ファシリテーションやリーダーシップでもあると私は考えています。組織としてのAI活用を考える時、生産性以外にも、こうした指標を大事にしていきたいと思います。
